最高裁判決の要点と解説

18条書面が交付されず貸金業法43条1項の適用がなく、貸付時に償還表を交付しただけでは特段の事情ありといえず、悪意の受益者と推定される

平成19年7月13日最高裁判所第二小法廷判決(平成18年(受)第276号)

要点

貸付の際、支払期日ごとに契約書規定金額を毎月支払った場合の残高の推移を示す償還表を発行していたとしても、それは18条書面(債権者が弁済を受領した都度交付する受取書面)の代わりにはならず、18条書面が交付されていない以上、当該業者は悪意の受益者と推定されます。

判決

被上告人(貸金業者)は、17回にわたって、証書貸付をしてきましたが、店舗で支払がされた場合には領収書(正確には「領収書兼残高確認書」)を交付したが、銀行振込で支払がされた場合には領収書を交付しませんでした。

被上告人は、上告人(借主)に対し
「貸付けの都度、各回の返済期日、各回の返済金額及びその元本・利息の内訳並びに融資残額を記載した償還表を交付しており、上告人はこれを知った上で被上告人の預金口座に払込みをしていたものであるから、預金口座に対する払込みの場合に貸金業法18条1項に規定する事項を記載した書面(以下「18条書面」という。)を交付しなくても、被上告人は本件各弁済の時点において貸金業法43条1項の適用要件を満たしていると信じていたのであって、民法704条の「悪意の受益者」ではない。」と主張しました。

原審は「最高裁平成14年(受)第912号同16年2月20日第二小法廷判決・民集58巻2号380頁(以下「平成16年判決」という。)までは、18条書面の交付がなくても他の方法で元金・利息の内訳を債務者に了知させているなどの場合には貸金業法43条1項が適用されるとの見解も主張され、これに基づく貸金業者の取扱いも少なからず見られた」ことを理由に、被上告人は悪意の受益者とは推定されないとしました。

しかし、最高裁判決は、次のとおり述べて、悪意の受益者たることが推定されるとしました。
「金銭を目的とする消費貸借において制限利率を超過する利息の契約は、その超過部分につき無効であって、この理は、貸金業者についても同様であるところ、貸金業者については、貸金業法43条1項が適用される場合に限り、制限超過部分を有効な利息の債務の弁済として受領することができるとされているにとどまる。このような法の趣旨からすれば、貸金業者は、同項の適用がない場合には、制限超過部分は、貸付金の残元本があればこれに充当され、残元本が完済になった後の過払金は不当利得として借主に返還すべきものであることを十分に認識しているものというべきである。そうすると、貸金業者が制限超過部分を利息の債務の弁済として受領したが、その受領につき貸金業法43条1項の適用が認められない場合には、当該貸金業者は、同項の適用があるとの認識を有しており、かつ、そのような認識を有するに至ったことについてやむを得ないといえる特段の事情があるときでない限り、法律上の原因がないことを知りながら過払金を取得した者、すなわち民法704条の『悪意の受益者」であると推定されるものというべきである。」

「被上告人は、上告人に対し、償還表を交付したと主張しているが、この償還表は、本件各貸付けの都度上告人に交付されるもので、約定の各回の返済期日及び返済金額等を記載したものであるというのであるから、上記償還表に各回の返済金額の元本・利息の内訳が記載されていたからといって、実際に上記償還表に記載されたとおりの弁済がされるとは限らないし、払い込まれた弁済金が上記償還表に記載されたとおりに、利息、元本等に充当されるとも限らない。したがって、平成11年判決の上記説示によれば、貸金業法43条1項の適用が認められるためには、上記償還表が交付されていても、更に18条書面が交付される必要があることは明らかであり、上記償還表が交付されていることが、平成11年判決にいう特段の事情に該当しないことも明らかというべきである。」

「少なくとも平成11年判決以後において、貸金業者が、事前に債務者に上記償還表を交付していれば18条書面を交付しなくても貸金業法43条1項の適用があるとの認識を有するに至ったことについてやむを得ないといえる特段の事情があるというためには、平成11年判決以後、上記認識に一致する解釈を示す裁判例が相当数あったとか、上記認識に一致する解釈を示す学説が有力であったというような合理的な根拠があって上記認識を有するに至ったことが必要であり、上記認識に一致する見解があったというだけで上記特段の事情があると解することはできない。」

解説

最高裁の考え方によれば、まず過払金受領当時、その受領につき貸金業法第43条1項が適用できる事案だったかどうかを検討する必要があります。適用可能となれば悪意の受益者は否定されますが、適用できないとなれば、業者が「同条項の適用があるとの認識を有しており、かつ、そのような認識を有するに至ったことについてやむを得ない。」といえる「特段の事情」があるかを検討し、特段の事情がない限り、業者は「悪意の受益者」であると推定されます。

本件では、業者は貸付の際、償還表を渡していたのですが、最高裁の指摘する通り、その後償還表通りに返済するとは限らず、もし支払いスケジュールがずれれば、利息額も、残高も違ってくるため、18条書面に代わるものとは到底いえません。ですから、この場合43条1項の適用がないのは当然のこと、上記の特段の事情さえあるとは解されません。

最高裁の結論は妥当でしょう。

借主が返済のに法定記載事項全ての記載ある書面で貸金業者の口座への振込用紙と一体となったものを受け取り、同書面を使用して振込をしたとしても、みなし弁済は成立しない

代表弁護士中原俊明
中原 俊明法律事務所ホームワン 代表弁護士

東京都出身、1987年 弁護士登録(東京弁護士会所属)、ホームワンの代表弁護士 中原です。一件のご相談が、お客さまにとっては一生に一度きりのものだと知っています。お客様の信頼を得て、ご納得いただける解決の道を見つけたい。それがホームワンの願いです。法律事務所ホームワンでは過払い金・借金問題に関する相談を受け付けています。

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