自己破産すると特例貸付はどうなる?

代表弁護士山田 冬樹
<監修者> 代表弁護士 山田 冬樹
数十年にわたって借金生活を続けている方の中には「これまで頑張って払ってきたのに、ここで債務整理に頼ったら、今まで苦しんできた人生はなんだったんだ」と考えてしまい、債務整理が遅れてしまう人もいます。しかし、過去にとらわれず、将来を見据えた決断をした方がいいでしょう。借金で苦しんでいる方は、思い切って相談いただき、残りの人生を豊かに生きていただきたいと思います。

コロナ禍で申請が増えた特例貸付とは

新型コロナ禍で困窮した人に、地域の社会福祉協議会が生活資金を無利子・保証人不要で貸し付ける「生活福祉資金の特例貸付制度」が2020年3月から開始され、約2年間で貸付総額は1兆3000億円を超すまでになっています。

この貸付には、新型コロナの影響で休業等により収入が減少した世帯を対象に、①緊急かつ一時的な生活資金として最大20万円を貸し付ける「緊急小口資金特例貸付」と、②収入減少が長期にわたる世帯向けに、生活の立て直しまでの安定的な生活資金として最大で月20万円を3か月間、合計60万円を貸し付ける「総合支援資金特例貸付」があります。

緊急小口資金は、返済が1年猶予され、2年以内に返済すること、総合支援資金は、返済が1年猶予され、10年以内に返済することとそれぞれなっています。しかし、新聞報道によれば、1年の猶予期間を過ぎても返済ができないという人が多く、東京都社会福祉協議会には自己破産の連絡が700件以上相次いでいるとのことです(2022年4月6日東京新聞)。20万円、60万円の借金だけで破産するというのは通常考えにくく、こうしたケースでは、他にもリボ払いなどで多額の借金を抱えているものと思われます。

特例貸付は生活資金のためのものであり、借金の返済に充ててはならないとなっています。しかし、特例貸付の申し込みの際には他に借金があるかどうかは申告の必要が無く、「収入の減少状況に関する申立書」に月収がいくら減ったかということと減収の理由を簡単に書くだけで済んでしまう上、証拠資料を出す必要も無いため、実際は借金の返済で生活が成り立たないという人でも簡単に借りることができてしまいます。

そのため、借金が多すぎて、どこからも借りられないという人にとっては、特例貸付が、干天の慈雨のように助けとなると思えるのかもしれません。しかし、借金が数百万円ある場合、20万円、60万円を返済に充てても、焼け石に水で、しばらくすると、また借金が雪だるま式に増え、前と同じ金額になってしまい、何の解決にもなりません。

多額の借金がある人は、こうした特例貸付に頼ることなく、本来は任意整理、自己破産、個人再生といった債務整理をしておくべきだったといえます。

自己破産すると特例貸付は返さないといけない?

結論からいうと、自己破産した場合、特例貸付についても免責許可の対象となるため、返済する必要はなくなります。なぜなら、特例貸付は後述の非免責債権に該当しないからです。

自己破産とは、自分について破産手続開始および免責許可を申立てる手続きをいいます。よく自己破産すると「借金がゼロになる」といいますが、それは免責許可決定のことをいいます。裁判所の免責許可決定を受けると、借金の支払い義務が免除され、すなわち、「借金がゼロになる」状態となります。

ただ、免責許可決定が出ても、次の債権は免責されません(「非免責債権」といいます)。

非免責債権(破産法253条)

租税等の請求権

例:税金、社会保険料(健康保険料、年金等)

破産者が悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権

例:横領、詐欺、窃盗、物品の破壊、放火等による賠償金

破産者が故意又は重大な過失により加えた人の生命又は身体を害する不法行為に基づく損害賠償請求権

例:無謀運転による交通事故、重大な安全管理違反による業務災害

婚姻費用分担義務

別居中の夫婦間の生活費の仕送りの義務をいいます。

養育費

直系血族・兄弟姉妹間の扶養義務

雇用関係に基づいて生じた使用人の請求権及び使用人の預り金の返還請求権

故意に債権者名簿に記載しなかった請求権

破産申立の際、全ての債権者を名簿に記載し、裁判所に提出しなければなりませんが、名簿から漏れた債権は免責の対象となりません。

罰金、科料等

科料とは聞きなれない言葉だと思いますが、一定の金銭を納めさせる刑事罰です。罰金は納めないと労役場に留置されますが、科料は納めなくても労役場に留置されないという違いがあります。

特例貸付は、社会福祉協議会による貸付金です。社会福祉協議会は、その運営資金の多くが行政機関の予算措置によるものであり「半官半民」ともいわれる組織ですが、法律上は社会福祉法人という民間団体です。そのため、特例貸付は、上に述べた非免責債権の一つである「租税等の請求権」にあたらず、裁判所の免責許可決定を受けると、返済義務は免除されます。

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