消滅時効の援用とは|長期間放置された借金は返さなくてもよくなる?

代表弁護士山田 冬樹
<監修者> 代表弁護士 山田 冬樹
数十年にわたって借金生活を続けている方の中には「これまで頑張って払ってきたのに、ここで債務整理に頼ったら、今まで苦しんできた人生はなんだったんだ」と考えてしまい、債務整理が遅れてしまう人もいます。しかし、過去にとらわれず、将来を見据えた決断をした方がいいでしょう。借金で苦しんでいる方は、思い切って相談いただき、残りの人生を豊かに生きていただきたいと思います。

何年も前に払い終わったと思っていた借金が実はまだ残っていて、突然、業者や債権回収会社、あるいは裁判所から連絡を受けてしまった、という相談をいただくことがよくあります。
利息や遅延損害金が付加され、借金が高額になっている上に、普段は接点の無い債権回収会社や裁判所から郵便物が届くなどして、非常に動揺された状態でご連絡をいただくケースも少なくありません。
こういった場合、状況次第では、「消滅時効」という制度を利用する(援用する)ことで、その借金を支払わなくて済むようになることがあります。ここでは「消滅時効の援用」について解説します。

消滅時効の援用とは?

「消滅時効」とは、借金問題でいうと、借入れも返済も長期間行わなかった場合に、業者が持っている債権(借金を請求する権利)が消滅する制度です。
ただし、まず注意しなければならないことは、一定期間が経過すれば自動的に消滅するわけではない、ということです。業者に対して、しっかりと「消滅時効により、借金は消滅しているため、払う義務はありません。」と主張する必要があるのです。これを、「消滅時効を援用する(時効援用)」と言います。消滅時効の援用をしないと、いつまでも督促を受け続けることになります。
次に注意しなければならないことは、取引が無かった期間がどれくらいか、ということです。原則5年で時効となりますが、時効が成立する前に、業者が訴訟や支払督促といった裁判手続きを起こすと、時効期間がそこからさらに10年先に延びます。
また、信用金庫、信用組合、農協、日本政策金融公庫といった、会社組織をとっていない金融機関の場合、契約したのが2020(令和2)年3月31日以前であれば、10年経たないと時効になりません。

消滅時効が認められなくなる条件、時効の更新に要注意

本来であれば消滅時効を援用できる時期になったとしても、それまでの期間中、もしくは、その後に特定の事情があると、消滅時効を援用できなくなってしまうケースもあります。これを、時効の「更新事由」と言います。更新事由があると、それまでの時効期間はリセットされてしまい、再度、ゼロから時効期間がカウントされることになってしまいます。この更新事由の主なものとして、「債務を承認してしまった」、「債務名義を取得された」、「差押えをされた」という3つが挙げられます。

1. 債務を承認してしまった場合

債務を承認する」とは、具体的には、「(たとえ少額であっても)実際に支払った」「いついつまでに支払うと約束した」「そのうち払うからちょっと待って欲しいと頼んだ」「支払いに関する書面を取り交わした」といったようなことです。
こういったことを行なうと、その時点で、それまで経過していた時効期間がリセットされてしまい、再度、5年あるいは10年が経過しないと消滅時効を援用できなくなってしまいます。
業者は巧妙ですので、督促のため自宅を訪問した際に「ここまで来て全く回収できないと上司に怒られる。電車賃として1000円だけでも払ってくれ」などと言ってきたりします。もし、ここで1000円払ったとすると、業者は「債務の返済として1000円支払ったから、債務を承認したことになる。」と主張し、時効援用が出来なくなってしまう可能性があります。

2. 過去に裁判をされている場合

過去に裁判を起こされて、借金について判決が確定した場合、その判決は「債務名義」と呼ばれます。債務名義は、ほかにも裁判所から「支払督促」という書面が送ってこられたのに放置したり、裁判で和解手続きをしたりすることでも成立します。業者が債務名義を取得したという言い方をしてきた場合、こうした判決や和解などがあったということです。
業者に債務名義を取得されてしまうと、それまでの時効期間はリセットされてしまい、あらためて10年が経過しないと、消滅時効を援用することができなくなってしまいます。また、債務名義を取得された場合、それにより給与、退職金、預金の差押えを受けるリスクも発生します。
なお、消滅時効を援用できる時期になった後に裁判を起こされた場合は、その裁判の中で「消滅時効を援用する」と主張することで、消滅時効を援用することが可能です。

時効の援用をするメリットとデメリット

時効援用のメリット

消滅時効を援用することの最大のメリットは、借金の支払い義務が無くなることですが、その他にも、信用情報の不利益情報が削除されるというメリットもあります。(信用情報については、「ブラックリストについて」をご覧ください。)

延滞している期間中は、信用情報に、借金残高や、いつから延滞しているかといった情報が載るため、いわゆるブラックリストの状態となっていますが、消滅時効を援用することで、借金残高の記載がゼロ円になります。一時的には「貸し倒れ」といった記載が残る可能性はありますが、一定期間経過後にその業者と契約していたこと自体が削除されるため、滞納していた期間と比較して、カード等の審査が通りやすくなります。

時効援用のデメリット

消滅時効を援用できた場合のデメリットは、特にありません。

時効が認められなかったらどうなる?

消滅時効を援用できた場合、特にデメリットはありませんが、消滅時効を援用できると思ったのにできなかった場合は、いくつかリスクがあるので、慎重に行なう必要があります。

消滅時効が援用できると思ったのにできなかったケースとして多いものに、「既に5年以上(あるいは10年以上)経過していると思っていたが、実際にはそれだけの期間は経過していなかった」「裁判所からの書類は届いていないと思っていたが、前に住んでいた住所に届いていて、欠席判決が出ていた(債務名義を取られていた)」といったようなことがあります。

消滅時効が援用できなかった場合は、それまで長期間にわたって返済をしてこなかった業者に対して返済を再開する必要が生じます。その場合、利息や遅延損害金が付加されて借金が高額になっており、こういった場合は、弁護士が和解交渉をしても、利息等を免除してくれないことも多いです。そのため、どうしても払えない場合には、自己破産などの法的整理を検討する必要もあります。なお、再度、消滅時効が援用できる時期まで返済をしないという方法もありますが、裁判を起こされていた場合、時効が完成するのに判決確定後10年間かかるため、精神的な負担は大きいでしょう。

時効の援用手続きの流れ

1.ご相談・受任

お電話、Webフォームにてご相談をお申込みいただき、事務員が状況などを伺い、手続きの説明をさせていただきます。その後、弁護士と面談した上で、受任となります。

2.取引内容調査・時効援用通知作成

業者から取引履歴を回収し、消滅時効の援用ができる時期にあるか、あるいは、債務名義を取得されていないかなどを確認します。その上で、消滅時効を援用できそうな状況であれば、時効援用通知(消滅時効を援用する旨の通知)を作成します。

3.時効援用通知の発送

ホームワンから業者に対し、時効援用通知を発送します。なお、いつ業者に配達されたかを証明するため、時効援用通知は内容証明郵便にて発送します。

4.消滅時効成立の確認

時効援用通知の発送から一定期間(2~3週間程度)が経過したら、業者に電話して、消滅時効により借金が無くなっているかを確認し、その結果をお客様に報告します。

まとめ - 時効援用が可能かどうか、まずは弁護士にご相談を

消滅時効の援用は、成功した場合のメリットは大きいですが、他方で、失敗した場合のリスクも大きい手続きのため、慎重に行なう必要があります。なお、ネット上では、お客様自身で行なう時効援用の方法を案内しているホームページなどもありますが、時効援用通知の記載内容次第では、逆に債務承認と取られるような結果になってしまうこともあるため、作成や発送に際しては、弁護士等の専門家に任せた方が確実です。
また、債権回収会社や裁判所の対応は、一般の方にはかなり難しいことですので、長期間滞納している借金について請求されてしまった場合は、すぐにホームワンにご相談ください。

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