平成21年9月11日最高裁判所第二小法廷 判決(平成21年(受)第138号)

一度の遅延だけで、それ以降の全期間につき遅延損害金を主張するのは信義則違反

【要点】

利息制限法の遅延損害金の上限金利は、約定金利の1.46倍です。そのため、取引中、遅延損害金で計算されている箇所が多ければ多いほど、長ければ長いほど過払金は出にくく、少なくなります。

本判決は、 借主が支払日の翌日に業者に連絡したところ、 単に業者が一括請求しないだけでなく、 ①業者がその際、毎月の返済額プラスアルファ程度の額を支払えばいいと告げ、 ②その支払をした時の領収証にも、利息欄、元本欄に金額の記載があるだけで、遅延損害金欄には金額の記載がなく、 ③その後支払いが1日遅れたことがあったが、その際も業者は元金+約定利息1日分の金額を払えばよいと告げ、 ④その後6年間一括請求されなかった という事案についてのものです。

そのような事情があれば、借主が一括請求されることはないと誤解したとしても無理はなく、業者も借主がかかる誤信に陥っていることを知っていながら、そのまま分割返済を受け続けていながら、いざ過払金を請求されるや、初回遅延日にさかのぼってそこから全ての取引をずっと遅延損害金で計算するよう求めるのは権利の濫用であると最高裁は判断しました

【判決】

業者が上告人、借主が被上告人です。

「本件契約には、遅延損害金の利率を年36.5%とした上で、期限の利益喪失後、毎月15日までに支払われた遅延損害金については、その利率を利息の利率と同じ年29.8%とするという約定があるというのであり、このような約定の下では、借主が期限の利益を喪失しても、支払期日までに支払をする限りにおいては期限の利益喪失前と支払金額に差異がなく、支払期日を経過して年36.5%の割合による遅延損害金を付加して支払うことがあっても、その後の支払において支払期日までに支払えば期限の利益喪失前と同じ支払金額に戻るのであるから、借主としては、上告人の対応によっては、期限の利益を喪失したことを認識しないまま支払を継続する可能性が多分にあるというべきである。」

「被上告人が第5回目の支払期日における支払を遅滞したことによって期限の利益を喪失した後も、約6年間にわたり、残元本全額及びこれに対する遅延損害金の一括弁済を求めることなく、被上告人から弁済金を受領し続けてきたというだけでなく、 ① 被上告人は、第5回目の支払期日の前に上告人の担当者から15万円くらい支払っておけばよいと言われていたため、上記支払期日の翌日に15万円を支払ったものであり、しかも、 ②被上告人が上記のとおり15万円を支払ったのに対し、上告人から送付された領収書兼利用明細書には、この15万円を利息及び元本の一部に充当したことのみが記載されていて、被上告人が上記支払期日における支払を遅滞したことによって発生したはずの1日分の遅延損害金に充当した旨の記載はなく、 ③ 被上告人が、第9回目の支払期日に、上告人の担当者に対して支払が翌日になる旨告げた際、同担当者からは、1日分の金利を余計に支払うことを求められ、翌日支払う場合の支払金額として賦払金と年29.8%の割合で計算した金利との合計額を告げられたというのである。」

「上記(2)のような上告人の対応は、(略)被上告人に期限の利益を喪失していないとの誤信を生じさせかねないものであって、被上告人において、約定の支払期日より支払が遅れることがあっても期限の利益を喪失することはないと誤信したことには無理からぬものがあるというべきである。」

「上告人は、被上告人が期限の利益を喪失していないと誤信していることを知りながら、この誤信を解くことなく、第5回目の支払期日の翌日以降約6年にわたり、被上告人が経過利息と誤信して支払った利息制限法所定の利息の制限利率を超える年29.8%の割合による金員等を受領し続けたにもかかわらず、被上告人から過払金の返還を求められるや、被上告人は第5回目の支払期日における支払が遅れたことにより既に期限の利益を喪失しており、その後に発生したのはすべて利息ではなく遅延損害金であったから、利息の制限利率ではなく遅延損害金の制限利率によって過払金の元本への充当計算をすべきであると主張するものであって、このような上告人の期限の利益喪失の主張は、誤信を招くような上告人の対応のために、期限の利益を喪失していないものと信じて支払を継続してきた被上告人の信頼を裏切るものであり、信義則に反し許されないものというべきである。」

期限の利益喪失 例えば50万円の貸金を、毎月2万円ずつ支払う約束があったとします。ところが支払いが遅れ、一括請求される場合、これを「期限の利益を喪失する」といいます。

【解説】

殆どの業者は、契約書には必ず1回でも支払いが遅れたら期限の利益を喪失する=一括請求するとの条項(期限の利益喪失条項)をつけています。

しかし、これまた殆どの業者が、こうした規定があるにもかかわらず、支払いが多少遅れても、一括請求しないどころか、支払いがあれば、元の通常利率に戻します。

1回でも遅れた場合は、一括請求し、遅延利率を課すとなると、客が逃げてしまうため、なるべく客を逃さないようにこのような措置をしているのです。
この判決の業者(旧㈱シティズ、現アイフル)も昔は同じやり方をしていました。

たとえば、毎月10日支払いのところ、15日に支払われたとします。
こうした場合、業者は通常、10日までは通常利息として通常利率、15日までは遅延損害金として遅延利率、15日の翌日からは通常利息として通常利率で利息を計算します。
仮に借入残高が50万円として、利息制限法の上限金利で計算すると、前の例でいうと10日までは年18%、15日までは年26.28%、15日の翌日からは再び26.28%で利息を計算する訳です。

さらに、リボルビング払いを定める基本契約を締結している場合、遅延が生じていようといまいと、新たな貸付もしてもらえます。

ところが、一部の業者は、そのような利息の取り方をしておきながら、いざ過払金を請求されると、一度でも遅れた場合、その後は全て遅延損害金で計算すべきだという主張をしてきます(当事務所ではこの主張を「全遅損主張」と呼んでいます)。
10日までは年18%、15日までは年26.28%、15日の翌日から完済までずっと年26.28%計算すべきと主張するのです。

しかし、この業者も、借主が一度遅延したとしても、返済時の明細には、次回期日の返済額欄があれば、そこには通常返済額を記載しているはずですし、遅れた箇所だけ遅延損害金とし、明細にもそのように記載している筈ですから、本最高裁判決に従えば、過払金を主張する段になって、初回遅延後全て遅延損害利率で計算すべきことを主張するのは信義則に反します。

もっとも、このような場合、当事務所では、信義則の主張をする前に、「いったん支払いが遅れても、その後に支払いがなされれば、業者は期限の利益を再度付与する扱いとしている」という主張をしており、殆どの裁判でこの主張が認められているため、信義則に触れられることなく、請求認容判決を貰っています。

【参考条文】

民法 第1条第2項(信義則)

権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない。

民法 第1条第3項

権利の濫用は、これを許さない。

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